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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)1139号 判決 1963年10月07日

判   決

東京都豊島区椎名町三丁目二〇二九番地

原告

鴻森久男

同所鴻森久男方

原告

金子文雄

右両名訴訟代理人弁護士

横山正一

横山唯志

副聡彦

同都中野区上高田一丁目二〇九番地

被告

大玉勝政

右当事者間の損害賠償請求事件についてつぎのとおり判決する。

主文

1、被告は、原告鴻森久男に対し一八、〇〇二円、原告金子文雄に対し一五五、八二五円ならびに右各金員に対する昭和三八年三月二日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員をそれぞれ支払え。

2、原告らのその余の各請求を棄却する。

3、訴訟費用は二分し、その一を被告の負担とし、その余を五分し、その一を原告鴻森久男の負担とし、その四を原告金子文雄の負担とする。

4、この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、「1、被告は、原告鴻森久男に対し三六〇〇五円、原告金子文雄に対し三一一、六五〇円ならびに右各金員に対する昭和三八年三月二日以降右完済にいたるまでの年五分の割合の金員をそれぞれ支払え。2、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、つぎのとおり述べた。

一、被告は、昭和三五年二月一七日午後二時三〇分頃東京都豊島区椎名町四丁目二〇三一番地先路上においてその運転する普通乗用車(以下被告車という)の前部を原告金子文雄が運転する原告鴻森久男所有の軽二輪車(む六八六七号以下原告車という)の右側面に衝突させ、原告車の右側バンバーに損傷を加え原告金子文雄に右下腿打撲裂傷、右脛骨複雑骨折および左肘部打撲の傷害を加える事故を惹起した。(以下省略)

理由

一、請求原因第一項(本件事故の発生)は当事者間に争がない。

二、請求原因第二項(被告の過失)について判断するに、(証拠―省略)を合せ考えれば、本件事故現場は、原告主張のとおり、国電目白駅方面から椎名町四丁目方面に向う豊島区椎名町四丁目二〇三一番地先道路の丁字型交叉点であるが、当時椎名町四丁目から目白駅方面に向つては、前方信号機取付のある交叉点から停車中の自動車等が列をなし、本件事故現場まで続いていたので、本件交叉点で右折して進行する予定の被告は、約二〇粁に減速すると共に椎名町四丁目方面から目白駅方面に向つて被告の斜左前方を進んできたトラックに合図してその進行を抑止し、一挙に右折して右方の路地に進行しようとしたところ、停車中の右トラックと歩道の間約一、二米の間隙を約三〇粁の速度でトラックの陰から原告車が進行してきたので急停車の措置をとつたけれども及ばず出合頭に原告車の右側と被告車の左前部バンバーとが接触するにいたつたことを認めることができ、被告本人尋問の結果によれば、被告は、左斜前方に停車していた四輪車(トラック)のために原告車の進行してくるのを見ることができなかつたことを認めることができ、原告金子の本人尋問の結果によれば、同原告は当日少し雨がふつていたのでいつもより少しスピードを出していたことおよび本件交叉点は勤務先である原告鴻森方の近くで毎日通つているので地理に明るかつたことを認めることができるが、原告金子が本件交叉点附近で格別徐行、停止等の措置をとつたことを認むべき証拠は存在しない。

このような状況のもとにあつては、被告としては、左斜前方のトラックの陰から本件のように自転車又はオートバイが進行してきて衝突することがないか否かを注意し、安全を確認のうえ進行すべきであり、もしこの注意をつくしておれば本件衝突をさけることができた筈であるにもかかわらず、これを怠つたため原告車が進行してきた時これをさけえずして本件事故をひき起したものと認めるのが相当である。しかし、他面原告金子としてもその右側にはずつと自動車が縦列停車していて右斜前方の本件交叉点の見透しが必ずしもよかつたといえない状況であつたのであるから前方及び左斜前方からこの交叉点に進入しようとする人車がないかどうかに注意を払い、万一にそなえて何時でも停車することができるよう減速すべきだつたのであり、もしその注意をしておればこの事故をもよくさけることができたはずである。しかるに、同原告はこれをつくした形跡なく、漫然時速三〇粁で進行したため本件事故を招いたものということができる。交叉点における直進車優先の原則は、本件のように直進車の見透しが十分でない場合にはかならずしも働かないこと道路交通法七二条の律意に照し明かである。

三、損害について判断する。

(一)、原告鴻森の損害についてみるに、成立について争のない甲第二号証に、原告鴻森の本人尋問の結果を合せ考えれば、同原告がその所有の原告車修理のためその主張のとおり金三六〇〇五円の支払をしたことをみとめることができるから、同原告は同額の損害をこうむつたものというべきである。

(二)、原告金子の損害についてみるに、原告両名の各本人尋問の結果に成立に争のない甲第五号証ないし第一三号証を合せ考えれば、(1)、原告金子は負傷治療のため入院費、治療費、看護料等として合計一六一、六五〇円の支出を余儀なくされたこと、(2)、原告金子は、受傷後昭和三五年七月末日まで就労することができなかつたので、その間雇主である原告鴻森から従前月一万円ずつうけていた報酬合計五万円をうけることができなかつたこと、(3)、原告金子は、その主張のとおり昭和三五年二月一七日から同年六月九日まで松原外科病院に入院して治療をうけ、退院後は同年七月初頃までマッサージ治療をうけ、八月から店番程度の仕事に、九月中旬頃から完全な仕事にしたがうことができるようになつたが、右足首の関節はいまなお完全には屈曲しない状態であつて、その肉体的精神的苦痛は甚だしく、年齢二三歳の金物店店員であることがみとめられ、これらの諸般の事情を考えればその慰藉料は三〇万円をもつて相当とみとめられる。

(三) しかしながら、本件事故については、被告の過失の外に原告金子の原告車運転上の過失もその原因を与えていること前認定のとおりであつて、その原因力は双方平等と認めるのが相当であるから、右各損害のうち被告の責に帰すべき部分は各二分の一というべきである。そうするとその額は原告鴻森の関係では一八、〇〇二円(円未満切捨)となり、原告金子の関係では一八、〇〇二円(円未満切捨)となり、原告金子の関係では二五五、八二五円であるところ、原告金子については自動車損害賠償責任強制保険の保険金一〇万円をうけたことを自陳しているから、これを控除すれば、一五五、八二五円となる。

四、以上のしだいであるから、原告らの請求は、原告鴻森について損害金一八、〇〇二円原告金子について損害金一五五、八二五円と右各損害金に対し本件訴状送達の後である昭和三八年三月二日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金を求める部分を正当として認容すべきであるが、これを超える部分は理由がないとして棄却すべきである。訴訟費用の負担について民訴九二条、九三条一項の規定を、仮執行の宣言について同一九六条一項の規定を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 小 川 善 吉

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